はじめに
ここ数年ほどリモートワークをしていたが、そもそもリモートワークを上手く実践できているのか、会社としてリモートワークをするための環境や制度は整えられているのか、というのが気になっていたので本書を読み始めた。
本書は、世界最先端といわれるリモート組織の実態やメリット、リモート組織への移行プロセスや発生する問題への対処法、カルチャーの醸成方法、パフォーマンスを上げるための人事制度・業務ルール設計などが記載されている。
以下に章ごとの概要と、気になった箇所をピックアップする。
第1章 世界最先端のリモート組織「GitLab」
本章ではGitLabの成長の経緯や、リモート組織としての軸となる思想について記載されている。
意図されたインフォーマルコミュニケーション
仲間意識の醸成のために必要。人間的な感情の交流がパフォーマンスやコラボレーションに必要不可欠と。効果の振り返りや継続的な改善が行われていなければ施策を継続させることが難しい
経験上、社員交流を目的とする施策は形骸化していき、途中から目的を見失っていくことが多かったので分かる気がする。インフォーマルコミュニケーションの具体的な効果については第4章で述べられている。
信頼できる唯一の情報源
最新の正確な情報が一箇所にしか存在しないのは、ドキュメント文化を発展させる上で非常に重要な概念である
通話やMTGで話した内容や、他社に共有したい内容はesaやNotionに記載することはあったが、人によって記載する場所や形式が異なるため、結局情報が分散した形になることが多かった。こういった情報を整理してくれる人、または情報を記載する場所や形式を整備してくれる人がいるのであれば信頼できる情報源として活用できたかもしれない。
第2章 リモート組織によって得られるメリット
本章では採用・エンゲージメント・パフォーマンスの向上や、それ以外にも存在するリモート組織によって得られるメリットについて記載されている。
最も優秀な人材を早く採用できる
採用競争率の高い優秀なソフトウェアエンジニアはリモート環境を好むことが多く、現在もリモート環境で活躍していることが予測されるため、居住地を限定しない働き方の重要性はますます高まる。そうした人材にとって柔軟性があり効率的な業務が進められる環境であれば、リファラル紹介が増えたり、企業の口コミサイトなどの評判も向上したりするなど、採用のプレゼンスを上げることにも寄与する
リモートワークをしていない会社に比べれば上記の通りかもしれないが、現状はリモートワークをする企業が多くなってきており小さなパイの奪い合いの状態になっているため、優秀な人材を早く採用することは難しいのではないかなと思っている。企業としての魅力や、差別化するポイントがあれば可能かもしれないが、容易ではなさそう。
非同期の業務スタイルはオフィスワークでも活用できる
ペアプロや親睦を深めるためのコミュニケーションなど、同期で行ったほうが良いものも存在するが、同期・非同期の適性を判断しながら業務を進めれば業績は向上し、従業員も充実した生産的な時間を過ごせるようになる
普段リモートワークをしていても、必要に応じてオフィスに集まって作業をする場合がある。そのときは大体口頭でコミュニケーションをし、テキストで記録をしないことが多い。人数が少ない内は問題ないかもしれないが、人数が多くなってきた場合に備えてテキストで記録する練習もしておく方がいいかもしれない。
第3章 リモート組織を構築するためのプロセス
本章ではリモート組織のための移行プロセスについてと、そのポイントについて記載されている。
リモート作業環境を整備する
必要な備品をオンライン会議中に違和感を抱かない標準的な水準で用意する。人間工学に基づいた椅子やデスクなどを準備することも推奨している
ここ数年リモートワークをしているが、作業環境は本当に大事だと思う。他のメンバーとスムーズにコミュニケーションをとるという意味でもそうだが、長時間のデスクワークは健康を害する可能性が高いため、自分の身体を守るために良い作業環境を整えるべき。
第4章 リモートワークで発生する問題と対策
本章では移行にともなって発生するざまなまな問題を取り上げ、傾向と対策について記載されている。
リモートワークに共通して発生する問題
働きすぎる。テキストベースコミュニケーションに対応できない。孤独感を覚える。仕事と生活の境目が曖昧になり疲労する。新入社員や部署異動したメンバーがチームに馴染めない
それぞれ思い当たる節がある。自宅で作業を行う際、作業スペースにもよると思うが、日常と仕事との切り替えが難しくなったりする。朝起きてベッドからすぐにデスクに向かい、朝ごはんを食べながら作業を開始。お昼ごはんも同様に作業をしながら食べている。これが続いてしまうと疲れが溜まり気持ちも沈んでいくので、日常と仕事の緩急はつける方が良い。
インフォーマルコミュニケーションを設計する
インフォーマルコミュニケーションが従業員のパフォーマンスを上げる。「社会的受容」がパフォーマンス、職務への満足、組織コミットメント、在籍意欲を向上させ、退職のリスクを減らすことが示唆されている
書籍で述べられている状況とは異なるかもしれないが、雑談をするだけでもメンタルに良い影響を及ぼしているのは体感している。しばらくSlackで雑談相談ハドルミーティングを開いて誰でも歓迎するといったことを試していたが、仕事だけをしている状態と比較するとメンタルが良い状態が続いていた。またメンタルへの作用に加え、雑談相談しながら仕事をすることで、作業中に困ったことを気軽に質問してすぐに解決するといったことができたので効率的でもあった。ただ、自分から意識してコミュニケーションを行うようにした場合はつい楽しくなってしまうことが多々あるが、これを会社から強制された場合はどう思うのかというのは気になっている。
第5章 カルチャーはバリューによって醸成される
本章ではGitLabのValueについて記載されている。おそらく本書の本命となる章であろう、一番ページ数が多い。
カルチャーマッチではなくバリューマッチが重要
カルチャーマッチで採用していた時代には、組織カルチャーに近い性格や行動パターンの自分つしか採用できなかった。一方、バリューマッチであれば、明示的なパターンを守るつもりがあるすべての人たちを採用対象者として見ることが可能になる
採用後に社員同士の衝突を避けるのと、離職率の低下を狙うためにカルチャーマッチの観点から採用を進めている企業が多い印象。バリューマッチの観点で採用を進める場合、バリューとして明示する内容をより具体的にしておく必要がありそう。バリューを市場に合わせてブラッシュアップする場合の頻度や、そのときの影響もどういったものか気になる。
バリューの全体像と優先順位
「コラボレーション」「成果」「効率性」「ダイバーシティ&インクルージョン、ビロンギング」「イテレーション」「透明性」の6つで構成
本説では各バリューの具体的な行動基準について述べられている。何のために何をするのかが記載されているので、必要な項目だけ真似して適用するだけでも良さそう。
第6章 コミュニケーションのルール
本章ではGitLabが採用しているコミュニケーションのルールについて解説している。
アンコンシャス・バイアスを制御する
自分たちがアンコンシャス・バイアスの影響を受けているという認識を持ちながらコミュニケーションを図ることが重要
「帰属バイアス」「確証バイアス」「ジェンダーバイアス」この他にもさまざまなバイアスが存在しており、人間は無意識のうちにフィルターをかけて物事を判断している
コミュニケーションを図る際に自分自身どういったバイアスをかけているのかが気になる。他にどんなバイアスが存在するのか、概要だけでも知っておく方がいいかもしれない。
ローコンテクストコミュニケーションを極める
相手に対して文脈や考え方を求めずに、言葉通りに解釈するコミュニケーション。解釈正の少ない言葉を選び、文脈となる情報を十分に説明することによって、文化の違いがあっても解釈を合致させることを目指さなくてはならない
ローコンテクストコミュニケーション難しそうだなと思っていたが、本説に記載されたローコンテクストコミュニケーションを活用するためのヒントを見る限り、思っている以上に難しくはなさそうだった。これらのヒント通りに文章を書いたとき、とても機械的な文章になるのではないかと気になってはいるが、仕事上のコミュニケーションに関しては解釈の違いをなくすために必要なのかもしれない。
ドキュメンテーショのン力を発揮させる
新しい情報をドキュメント化し、蓄積していくことによって、いつ、どこから、誰でも効率的に問題解決ができるようになる
使っているドキュメントサービスによるが、ノートをフォルダのどの階層に置くか、どのタグをつけるか、といったことに毎回悩まされる。ドキュメントが構造化されており、メンテされているのであればノートの配置場所やタグに困らないかもしれない。誰かいい感じにメンテしてほしい。
第7章 リモート組織におけるオンボーディングの重要性
本章ではオンボーディングの重要性と、GitLabが実施しているオンボーディングの流れについて記載されている。
オンボーディング期間の目安とフィードバック
週次単位でこまめにフィードバックすることで新入社員の早期戦力化と会社内での成功を実現できる
入社してきた人ができる人だと、そうでない人に比べてフィードバックの頻度が少なくしてしまっていた記憶がある。能力に関係なく、フィードバックはしていこう。
第8章 心理的安全性の情勢
本章ではリモート組織で心理的安全性をどのように構築していくのかが記載されている。
同意しない、コミットする、同意しない
たとえ反対意見を持っている人であっても、決定事項であれば実行され、検証されるまではコミットして全力で協力しなくてはならない
「同意しない、コミットする、同意しない」だけ見てもあまり理解できない。もっと他の表現はなかったのだろうか。
心理的安全性を維持しながらフィードバックする方法
人間はネガティブな感情に対して、ポジティブな感情の6倍強く反応してしまう
ネガティブなフィードバックを送る前に日常的にポジティブなフィードバックや人間味のあるコミュニケーションを行って良い関係性を構築しておくこと
ネガティブなフィードバックは伝える側としてもとても心苦しいときがあるが、伝えないとお互いによくない状況になり得る。言葉を選ぶ際も気をつける必要がありそう。
第9章 個人のパフォーマンス引き出す
本章ではGitLabが個人のパフォーマンスに対してどのような思想を持っているのかが記載されている。
「成果」と「行動」の2つの軸
実際に外部に対してリリースを行い、フィードバックを受けて計測していることが重要
行動に関しては、現在のグレードに応じたコンピテンシーを基準としている。業務を通じて、コンピテンシーをどれだけ発揮できているかという視点で行動面のパフォーマンスを計測している
コンピテンシー表が掲載されているが、とても細かく書かれている。会社からの評価を上げたい場合はコンピテンシー表に記載された基準を満たせばいいのでとても分かりやすい。
スキルと意志のパフォーマンスを見極める
パフォーマンスが出ていないメンバーの影響が他のチームメンバーにまで及ぼしだし、チーム全体の目標未達やモチベーションの低下につながってしまう
パフォーマンスの低下が見られる場合には、「スキル」と「意志」のどちらに問題があるのかを特定し、根本的な問題を解決していく必要がある
スキルに問題がある場合は話せば分かるので問題はないが、意志に関してはパフォーマンスが低下している本人でも何故モチベーションが低下しているのか分からないときもある。そういったときは上司やマネージャと1on1をし、掘り下げていくなどする方がよさそう。
不健全な制約に抵抗する
意義のある効率的なルールのみを残し続けていかなければならない
制度や制約を作って運用を始めたとしても、時間が経つに連れて形骸化してしまうものも多々あった。定期的に何のために制度・制約を作ったのかを振り返ったり、会社の状況と照らし合わせて制度・制約が本当に必要なものかを検討する時間を設ける方がいいかもしれない。
第10章 GitLab Valueに基づいた人事制度
本章ではGitLabの人事制度について記載されている。
タレント評価はマネージャーの最優先事項
適切な評価プログラムの運用はメンバーのパフォーマンス低下を回避し、主要な人材をつなぎ留めるという組織にとって最優先カテゴリーの問題に対処する役割を果たす
縦軸に「パフォーマンス」、横軸に「成長力」をそれぞれ3段階ずつ分割した、「9-BOX」を用いて評価を行っている
人事評価はかなり難しいと今でも思う。会社の収益構造によるが、社員がどんなに頑張っても売上に影響がない場合、社員の何を評価するべきなのか悩ましい。
すべての人が昇格を目指す必要はない
メンバーが人生と仕事をうまくバランスできるように組織として向き合うことによって、限界まで成長したい人は成長でき、調和した働き方を望んでいる人にはそうした状況を提供でき、いずれの場合であっても長く良い関係性を維持していけるようになる
とても素敵な考え方だと思う。自分自身、成長し続けないといけないという気持ちに囚われている気はしている。エンジニアとして生き残る上で成長は必要かもしれないが、人生という短い時間の中で、プライベートも大事にしていきたい。
第11章 マネージャーの役割とマネジメントを支援するしくみ
本章ではマネージャーとマネジメント、リモート組織がどうやってパフォーマンスを引き出しているかについて記載されている。
親愛さはパフォーマンスを向上させる
敬意を持って親密さを構築し、互いの信頼関係を強化していくアプローチ
尊敬できる人と一緒に仕事をしているとき、この人のためにもっと頑張ろうと思える。
ただ自分がマネージャとして動くとき、仕事を円滑にすすめるためにメンバーと関係を構築しよう、という考えを持ってコミュニケーションをとると、「今自分は嘘をついているのではないか」と考えてしまうことがあった。仕事だから割り切るしかないのかもしれないが、自分が思っていることと逆の行動をとるとストレスになるので難しい。
5つのマネジメントコンピテンシー
「感情的知性」「フィードバック文化の体現」「コーチング」「衝突の解決」「高業績チームの構築」
優れたマネージャの5つのコンピテンシーについて記載されている。マネージャのソフトスキル面について記載があるのは珍しい気がする。
第12章 コンディショニングを実現する
本章ではリモート組織においてコンディションを整えるための施策や知識について記載されている。
環境感受性の違いを理解する
自分は大丈夫だからといって他人も大丈夫であるわけではない
リモートワークであるからこそ、インフォーマルコミュニケーションや心身のコンディションを確認する機会を設ける
リモートワークを始めて、しばらくは心身のコンディションを整えることを蔑ろにしがちだった。オフィス勤務のときは移動などで運動する機会があったが、リモートワークになってからは椅子に座っていることがほとんど。椅子に座り続けると健康被害を及ぼすので、会社としてリモートワーク環境での健康維持の方法をレクチャーする方がよいと思う。
休暇を取らないことは組織の弱点
休みを取らないことでメンバーが疲弊してしまい、いつか限界を迎えてしまう可能性がある
休みを取らない人の業務が単一障害点になる
どちらも見に覚えがあるため耳が痛い。心と身体のケアのために休暇は積極的にとるほうが良い。
おわりに
リモートワークはPCとネットワークさえあればいいと思っている会社ほど読んでほしい本。リモートワークは適性がないとできないとか言っている会社は、まず従業員にリモートワーク環境の構築方法を伝え、本書のようにリモートワーク組織としての体制を整えてからその台詞を言ってほしい。